卓越した研究活動

研究・教育情報

卓越した研究活動

本プログラムは、多様多彩な大規模脳情報をセンシング、伝送・蓄積、解析・モデル化、シミュレーションする技術を横串として、脳科学を深化させる力と、脳に学んだ最先端情報エレクトロニクスを応用・展開する力とを養いながら、以下に示す5つの具体的課題分野について研究を推進します。そして、脳情報産業分野を育成・振興し、わが国を課題解決先進国へ導きます。

【課題分野1】 ゲノム機能解析

概日リズム中枢の制御と計測

概日リズム中枢の制御と計測

  知覚・認知・記憶・学習といった脳の情報処理は、ニューロンのネットワークやより高次の組織構造の形成を必要とします。このような脳の構造の情報は、DNAの塩基配列(ゲノム情報)として保存され、世代を超えて受け継がれています。豊橋技術科学大学には、生物の持つゲノム情報をハイスループットで解析することが出来る最新の次世代シークエンサーとその運用体制が整っています。本学では、これらの設備を生かして、マウスの時計遺伝子によって駆動される概日リズムの作用機構、昆虫と細菌との共生の成り立ち、RNA干渉機構、細菌の群集構造、藻類の光合成の仕組みなど、様々な生命現象をゲノムレベルで解明する基礎研究が行われています。また、生体の生命活動を外部からの光刺激によって制御する技術「オプトジェネティクス」を用いて、マウスの神経細胞の活動、動物個体レベルの生理応答、細菌の遺伝子発現を制御するといった応用研究も行われています。さらに、RNA工学を用いた創薬や、遺伝子組換え酵母によるバイオセンシングなど、産業応用を目指した試みも展開されています。本プログラムではこれらのゲノム解析の最新の機器や知識を生かして、新しい脳研究分野を開拓することを目指します。

【課題分野2】バイオセンシング

  生体の分子や細胞、組織間での信号伝達は非常に調和のとれた機械的、化学的、電気的な変化に基づいています。そのような生体情報を精度よくセンシングすることは生体メカニズム理解の一助になり得ます。視点を変えると、生体の反応は微小な系で極めて選択性が高く、かつ組織化された現象と言うことができます。この特性を活用して化学センサ素子の開発に取り組んでいます。化学物質の感受は細胞膜に発現した化学受容体によることから、化学センシングのために生体の嗅覚受容体に着目しました。遺伝子改変技術により、アフリカツメガエルの卵母細胞に嗅覚受容体を発現させたものを利用しています。発現している受容体に標的化学物質が結合すると細胞膜にあるイオンチャネルに作用し、細胞の膜電位に変化が生じます。そこで、計測用の電極を半導体プロセスにて作製し、生体材料とデバイスのハイブリッド素子開発を行っています。図のように膜電位固定用の電極と電流計測用の電極の二本を細胞内へ挿入し、増幅器を介して化学物質検出の信号が得られる仕組みです。生体の反応の特徴の一つである高い基質特異性が利用できるため、標的とそれ以外の化学物質のわずかな分子構造の違いも判別することが可能です。また、細胞に発現させる受容体は様々な種類が選べるため、異なる化学物質検出への対応も可能です。

【課題分野3】ナノフォトニクス

  脳情報の最大の特徴は多様かつ大規模であるということです。ゲノム機能解析やバイオセンシング等を通じて取得した超巨大データを伝送し蓄積して効果的に情報処理するには、それを支える情報テクノロジーの開発が不可欠です。特に最近の脳科学研究の進展により、fMRI、MEGなど多様な脳機能イメージングデータが計測され、大規模脳情報の管理が極めて深刻な問題となっています。

  本学は、新規のナノサイズの構造を探査することで、これまでにない電気・光・磁性等の相互作用をもった高機能材料、及び、デバイスを開発してきました。コリニアホログラム光情報メモリの開発を行い、世界に先駆けてCDサイズのホログラム光ディスクに1TBものデータの蓄積が可能であることを示しました。これは、世界標準規格として採用されました。この超大規模データストレージに基づき、ホログラム光スイッチを用いた高速光通信回線の実現や、ウェアラブル超高速空間光変調器、さらには医療データの3次元映像化に資するメガネ不要の3次元ディスプレイなど、世界的に見ても例のない新規性と独創性の高い情報テクノロジーの開発が行われています。

  本課題では、本学が誇る情報テクノロジーを本プログラムにおける巨大脳情報の蓄積、伝送、表示、解析技術と連携させ、人類未踏のブレイン情報テクノロジー開発に取り組みます。

【課題分野4】脳情報デコーディング

  人間中心技術を確立するためには人間の認知・行動理解が必要であり、そのために解決すべき脳情報科学的な課題は脳情報デコーディング技術の確立です。脳活動を多点同時的に記録する方法として、fMRIやMET、PET、脳波などの非侵襲的な方法、また侵襲的に脳表面から記録する脳皮質電位(ECoG)などがあります。これらの脳活動から人間の認知状態を推定することは、例えば、いわゆる感覚・知覚レベルの機能理解に留まらず、理解度や嗜好、心地よさ、意思決定の内部プロセスなど、いわゆる感性的あるいは主観的と呼ばれるパーソナルな情報を脳科学的に理解することにつながり、情報ネットワークと人間・社会の関係を理解し再構築するための基盤技術となります。また、ALS患者等に対するコミュニケーション支援や感覚再生、パーキンソン病などの脳疾患に対する効果的治療法の確立にとっても大きな意味を持ちます。

本学の突出した技術である上記課題分野1〜3において開発されたセンシングデバイスやデータストレージの実用化検証は、浜松医科大学、生理学研究所と連携しながら、エレクトロニクス先端融合研究所付属施設の動物実験施設を活用することで実施します。本施設ではラット、マウスの他、霊長類を対象とした実験も可能であり、こうした設備は国内の工学部では本学以外にはほとんど無く、本学の異分野融合研究環境が突出したレベルにあることを実証しています。また、本学において神経情報科学あるいは脳工学に関するプロジェクト(例えば、科研費・新学術領域研究「質感脳情報学」、総務省SCOPE、など)が実施されており、これらを本課題解決に最大限活用します。

さらに、連携企業であるニデックは、世界レベルの独創的な技術によって人工視覚システムに関する研究開発を推進しており、積極的な産学連携の枠組みによって本課題解決に取り組んでいきます。

【課題分野5】バーチャルブレイン・シミュレーション

  情報化技術と脳科学研究脳神経科学の融合は、脳の構造・機能の解明のみならず、脳疾患の治療、新しい情報技術の創出など多方面での発展が期待されています。なかでも、これまでに蓄積された膨大な科学的知見をスケールの違いを超えてシームレスに結合し、システムとして脳を理解する方法としてモデリング・シミュレーション技術は重要です。

  本課題では、上記課題1〜4により蓄積された神経伝達物質、神経細胞活動からfMRIや脳波、さらには認知状態や行動に至る様々なスケールのデータや知見を数理モデルとして記述・統合する技術を開発するとともに、それらをバーチャルブレインとしてコンピュータシミュレーションにより再現・予測することを目指します。また、そのためにも、計測・蓄積された膨大なデータから本質的で有用な情報のみを分析・抽出するためのブレイン情報マイニング技術、脳疾患に関わる遺伝子/タンパク質と脳内物質の相互作用や動的変異過程を分子レベルで明らかにするための第一原理ナノ解析技術、脳機能とシナプス・神経回路の対応関係をモデル化するための脳神経シミュレーション技術、さらに、これらを階層的に組み合わせたバーチャルブレインと、それによって制御可能なコグニティブ/ソーシャルロボティクスに関する研究も推進します。

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